山本 薫

准教授

山本 薫

研究課題:有機物を中心とする分子性結晶から新しいタイプの強誘電体を探索し新機能の開拓を行う。

キーワード:機能性分子固体,有機エレクトニクス,強誘電体,有機伝導体,非線形光学顕微鏡,赤外・ラマン分光 他

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山本 薫

研究の背景

有機分子は炭素などの原子の間で対つくる電子によって骨組みされています。どの電子もこの骨組の中にしっかりとどまっており,出入りさせることは容易ではありません。このためその集合体である有機固体は電気を流しにくく,元来,代表的な絶縁体と考えられていました。ノーベル賞を受賞された白川先生を初めとする科学者はこのような常識に果敢に挑戦しました。神の仕業を夢見た中世・古代の錬金術は失敗に終わりましたが,量子力学を手にした20世紀の科学者は,絶縁体であるべき有機物を,電気を流す伝導体に転化させることに成功したのです。以来,分子性の伝導体研究は大きな発展を遂げ,現在では銅などの金属並みの伝導性を示す物質や,電気抵抗がゼロとなる超伝導体も数多く合成されるに至っています。最近,身の回りに現れ始めたELディスプレー等などの有機デバイスは,こうした研究の成果の一端であり,電気を流す有機物の存在はもはや常識になったと言っていいかもしれません。我々は,このような常識に再チャレンジを仕掛けてようとしています。つまり,当然,電気を流すであろう有機物から絶縁体を見つけようとしているのです。ただし,かなり風変わりな,という条件つきの・・・。

研究のねらい

電気を流す資格をもちながら絶縁体として振る舞う一部の有機物中では,電気伝導を担うはずの電子がちょうど凍った水のように結晶となって動けなくなっています。我々は,このような物質の中で,凍結(結晶化)した電子の配列が結晶における分子配置に一致しない物質に注目しています。このような物質で電子が凍結をおこすと,分子と電子の配列の違いによっては,元々は上も下もなかった結晶にその区別が現れることになります。

単一の物質であるにも関わらず上と下の区別がある物といえば磁石が思い起こされますね。その電気バージョン,電池のようにプラスとマイナスの分極を発現する物質も,限られた数ではあるものの存在します。強誘電体とよばれるこうした物質群は磁石の代替物質としてメモリーへの応用が期待されているなど,多彩な機能で注目されているのです。

上で述べた電子が結晶化した有機導体はこれら風変わりな物質の仲間になりますが,さらに“かなり”と断り書きしたのは,通常の強誘電体の場合,電気分極は結晶中におけるイオンの変位によって発生するのに対し,これらの有機導体では伝導電子の結晶化で分極しているので特別な性質を示すと期待できるからです。

たとえば強誘電体の分極の向きを操ってコンピューターをつくるとしましょう。通常の強誘電体では結晶中でイオンを動かすことになりますが,我々が注目している有機伝導体の強誘電体の場合,制御するのはイオンにくらべ1000倍以上軽い電子ということになります。駆動速度はそろばんと電卓ほど違うことでしょう。実現できれば,桁違いに高速なコンピューターを実現できるかもしれません。

目標と戦略

このような電子型の強誘電体は,有機物以外の化合物を含めまだ提案段階の全く新しい物質群で,その性質は未解明です。我々はこのような物質を探索するために,主に光を使った実験により,

  • 分子中の原子間距離
  • 結晶の単位格子程度の範囲で支配されている電子状態,
  • 光の波長程度におよぶマクロな秩序構造の3つの距離スケールが異なる物性,

に注目します。(1)では赤外・ラマン分光による振動分光法を用い,電子の結晶化によって発生した電子粗密の様子を明らかにします。(2)では赤外・可視分光により,分子内部や分子間における電子遷移の様子を調べることで,結晶の電子構造の理解を進めます。(3)は,第二高調波発生法という非線形光学手法を応用し,電気双極子の長距離秩序や電気分極の空間分布の様子を明らかにします。これらの実験を通して,新しい強誘電体の探索指針を確立させ,さらに,応用へ向けた電気分極の制御へと研究を発展させていきます。

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更新日: 2015年7月16日

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