福島第一原発事故に伴う被曝線量に関する解説その1

応用物理学科 教授 豊田 新

福島第一原子力発電所事故に伴って環境中に放出された放射性核種により、放射線量が増大しているとの報道がなされています。報道される値について単位の誤記があるなど混乱しており、公表された数値をどのように読み取るべきか、専門知識が十分でない方には理解しにくいと思われます。放射線量についてできるだけわかりやすく解説してみました。理解の一助になれば幸いです。

1.単位について

放射線は一般に人体に害があるものであると考えられており、この場合に、放射線のエネルギーをどれだけ人体が吸収したか、が問題になります。このエネルギーの吸収量Gy(グレイ)という単位で表します。物質1 kgが1 J(ジュール)*のエネルギーを吸収した場合、「1 Gy被曝した」と言います。
報道ではSv(シーベルト)という単位が用いられています。これは、放射線の種類により生体に与える影響の大きさを補正した単位で、放射線防護ではこの単位が用いられます。環境中の放射線量を測定する、といった大まかな測定の場合、測定されているのはほぼガンマ線(波長の短い光)であると考えて差し支えありませんので、この場合、1 Gyと1 Svとは等しくなります。つまり、GyとSvは同じ単位であると考えてよいということです。
報道では、ミリシーベルト (mSv)、マイクロシーベルト (μSv) の両方の単位が用いられます。ミリは千分の1、マイクロは百万分の1という意味ですから、

1Sv = 1,000 mSv = 1,000,000 μSv
1 mSv = 1,000 μSv

です。
放射線の強度は単位時間当たりどれだけ、と表されなければなりません。従って、環境中の放射線の強度としては、例えば、μSv/h (マイクロシーベルト毎時)という単位が用いられるべきです。もし、20μSv/h の場所に5時間いれば、100μSvの被曝線量になるということです。報道では、この「毎時」が落ちている場合が多く、これでは強度を表したことになりません。3月15日の報道で、新宿において「9時台は0.465、10時台に0.809マイクロシーベルトを記録した。」とありますが、これは正しい単位が用いられていない典型です。おそらく、1時間当たり、という意味だろうと解釈しなければなりません。

*) J(ジュール):エネルギーの単位 .電気に例えるならば,1 Jは,1 W(ワット)の電力で1秒間する仕事に等しい.

2. 自然放射線量について

原子力発電所事故による放射性核種がなくても、私たちの周りにはウラン、トリウム、放射性カリウムといった、自然の放射性核種があるために、常に私たちは被曝しています。ラドンの吸入による内部被曝を除くと、地域による差はありますが、だいたい年間、1mSv/y の被曝をしています。これを1時間当たりに直すと、0.1μSv/h となります。「自然放射線の*倍」という表現は、これを基準にしていると思われます。

3.人体に影響のある線量

放射線施設は、放射線を扱っていますので、当然放射線量は高くなります。しかし、これがその周辺に住む住民の健康を損なってはいけません。そこで、事業所境界(今回の場合は原子力発電所の入り口、境界の柵など)において、自然放射線と同程度、1 mSv/y となるように遮蔽をしなければならないとされています。この線量の被曝による健康への影響は、日常生活による他のリスク(病気、交通事故など)に比べて十分に低いとされています。
一方、放射線業務に従事している者に対する基準は高く、5年間の合計で100 mSvただし、1年あたり50 mSv以下、と定められています。

人体に対する放射線の影響は、広島長崎の原爆による被爆者の調査によって明らかにされました。確定的影響としては、

0.5 Gy : 白血球の一時的減少
1.0 Gy :吐き気、嘔吐
1.5 Gy :白血球の減少、抵抗力の低下
3-5Gy :半数の人が死亡

とされています。また、これ以外に発ガンのリスクがあり、致死がんのリスクは、全身合計で1Svあたり5%とされています (つまり100mSvなら、0.5%)。

4. 今回の放射線量について

さて、ここまで準備をして、今回の放射線量のデータを解析してみましょう。

「3月15日午前10時台に新宿で、0.809マイクロシーベルトを記録した」については、これが「毎時」であったと補足するとします。自然放射線の線量を大きめに0.2μSv/h としますと、原子力発電所から放出された核種からの放射線による被曝線量は、ここに24時間いれば、15μSvとなります。原爆の被爆から明らかにされた放射線の人体に対する影響からみれば、ごくわずかで、健康に影響があるとは考えられない量です。しかし、これを年間に直すと、5.3mSv/y となります。つまり、この状態が1年間続けば、法令上、一般公衆に対して許される量の5倍以上被曝することになります。

asahi.com によれば、次のサイトが大気中の放射線量を公表しています。

茨城県 :放射線テレメータ・インターネット表示局
新潟県 :新潟県環境放射線監視テレメータシステム
静岡県 :静岡県環境放射線監視センター
全国 :災害情報

ここでは、nGy/h (毎時ナノグレイ) という単位が使われています。

1μGy = 1,000 nGy

です。SvとGyを同じとすると、自然放射線による線量は、100 nGy/h 程度ということになります。3月15日現在で、これらの数値を見ますと、茨城県各地は、この値の数倍から10倍となっており、明らかに原子力発電所から放出された放射性核種が飛来していることがわかります。一方、新潟県、静岡県では自然放射線のみが検出されています。
新聞、TV等では、人体に影響のある線量を400 mSvとしているようです。これは上記の一時的に白血球が減少する線量を基準にしているようですが、これと、その場の放射線の強度である400 mSv/hを混同しているように見受けられます。400 mSv/hの場所に1時間いれば、被曝線量は400mSvとなりますが、30分なら200 mSv、2時間いれば800 mSv被曝することになります。

5.「被曝検査」について

ここは蛇足です。避難住民の「被曝検査」が行われていますが、映像を見る限り、GMサーベイメータで衣服を調べています。これは、衣服などに放射性核種が付着していないかどうかを調べるものです。つまり、付着している放射性核種からの放射線を検知しているのです。ですから、これは「被曝検査」ではなく「汚染検査」と呼ばれるべきものです。もちろん、衣服に放射性核種が付着していれば、そこから放出される放射線によって「被曝」していることは確かですが、付着していなくても、遠くの線源からの放射線によって被曝している可能性もあります。「被曝」した事実は被曝した物質(生体)を調べなければなりません。現在、皮膚などに痕跡が残らないような低線量の被曝を検知できる方法として、血液のDNAの損傷を調べる方法、歯を電子スピン共鳴によって調べる方法の2種類があります。

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